Partager

第四十七話 番外編 渉の場合1

Auteur: 麻木香豆
last update Date de publication: 2026-08-28 15:41:57

窪木渉、大学二年生。

上京してきて一人暮らしを始めて、もう二年目になる。

経済学部に通いながら、親からの仕送りでなんとか生活している。

家賃にガス、水道、電気代。

最低限の生活費はどうにか賄えているものの、都会で暮らす学生には、それ以外にも何かと金がかかる。

昼食代。教材費。友人との付き合い。

そして、大学生らしい遊びにもそれなりに出費がある。

「……都会って、思ったより金かかるな」

渉は一人暮らしの部屋で財布の中身を確認しながら、何度そう思ったことか。

実家にいた頃は、電気代がいくらだとか、食費が一食いくらかかるだとか、そんなことを真剣に考えたことなどなかった。

コンビニで飲み物を買う。大学帰りに友人と飯を食う。気になった服を買う。

たったそれだけのことでも、積み重なれば結構な金額になる。

しかも東京にいると、周りがみんな少しだけおしゃれに見える。

地元にいた頃なら普通だと思っていた服装でも、大学ではなんとなく浮いているような気がする。

別に誰かに何かを言われたわけではない。それでも、気になってしまう。

大学生というのは、
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第百一話

     職場は慌ただしさを残しながらも、少しずついつもの空気に戻っていた。 京都の旅館とのミーティングも無事に終わり、圭は次の案件へと取りかかっていた。 海斗とは離れたデスクに座っている。 それでも、ふと顔を上げると、海斗がこちらを振り返ることがあった。 目が合う。 海斗は何も言わず、にこっと微笑む。圭も小さく笑い返した。 職場での海斗は、いつもと変わらない。 冷静に仕事を進め、スタッフの相談に乗り、必要な指示を出す。昨夜、あんなにも自分の欲しいものを求めていた人と同じ人物だとは思えないほどだった。 ……海斗も、あんなふうになるんだ。 ベッドの上で見せた、普段とは違う表情。 自分を求めてくれた声。 思い出すと、胸の奥がくすぐったくなる一方で、どこか落ち着かない気持ちにもなった。 海斗だけではない。 斗真もそうだった。 普段は余裕たっぷりで、何を考えているのか分からないところもある。それなのに、二人きりになると、まるで別の顔を見せる。 圭は、何気なくオフィスを見渡した。 同僚たちがそれぞれの仕事に集中している。電話をかける者、資料を確認する者、画面を見つめて悩んでいる者。 みんな、いつも通りだ。 けれど、仕事を離れたら。 それぞれに欲しいものがあって、誰にも見せていない顔があるのだろう。 みんな、そうなのかな。 そして。 ――僕も……。「何ぼーっとしとる、圭」 不意に声をかけられ、圭は肩を揺らした。「あっ……」 振り返ると、斗真がすぐ後ろに立っていた。「すみません……。何でもないです」「何でもない顔じゃないけどな。手が止まっとるぞ」 斗真は圭の画面を覗き込み、それから何かを思い出したように言った。「あ、そうだ。夜は海斗さんも一緒にジムに行くぞ」「……はい」 海斗も一緒に。 そう聞いて、圭はほっとしたような、それでいて少し身構えるような、複雑な気持ちになった。 そのとき、斗真の手が圭の左手に触れた。 指先から手の甲へ、確かめるようにゆっくりと撫でる。 圭の身体がわずかに強張った。振り払うことはできる。 嫌なら、やめてくださいと言えばいい。 けれど、ここは職場だった。周囲には同僚たちがいて、誰もが仕事をしている。大きく動けば、かえって目立ってしまう。 圭は手を引こうとした。 それでも斗真は、すぐに

  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第百話

     圭にとって憧れの先輩だった海斗。 その彼が今自分の上で恥じらいもなく本能を剥き出しにしている。「圭……圭っ……」 一度覚えた快楽はあっという間に人を泥沼にハマらせる。「海斗っ……後ろからっ……」「んっ……うんっ……」 圭は体勢がつらくなって訴える。海斗は減速してゆっくりと体勢を変える。 圭をうつ伏せにさせ上からまた入っていく。「あんっ……んっ……んっ」「んっ……いいね、この体勢……っ!!」「海斗さぁん……あんっ……」 海斗が圭を押さえつけるかのように体を乗せ主導していく。 圭の背中に強く口付けをする。赤く跡がついた。 キスマークだ。「たくさんつけておくね……」「嫌……っ……やっ……嫌だ……」 動きはもっと激しくなり海斗は腰を振り圭の奥の奥まで入る。「圭……圭っ……!!!」「あああああああっ……」 最後打ちつけた際に二人同時に果て、二人とも重力に体を任せて息を切らし倒れ込んだ。 海斗は圭の左手を握る。「汗だくだね……お互いに」「海斗……激しいからだよ」「気持ちいいから……圭は気持ちいい?」 そう言って圭の下の方を弄るとシーツには白濁したものが染み付いていた。海斗は圭を見て「気持ちよかったんだね……明日は天気がいいからシーツ洗ってから出社しないと……洗っても洗っても追いつかないね」「うん……こういう時は下にタオル敷いたり……ペットシーツとか……敷いたり……」「……そんなことしてたの?」「うん、それなら何度も洗わなくてもいいだろ?」「……ん、まぁ……」 海斗はその辺りの事情を初めて知り状況を呑み込んだ。「ペットシーツ……ねぇ」「……恥ずかしい……」「どうして……まぁライフハックみたいなものじゃん」 体を起こしティッシュを取って拭き取る。確かにさっきした時のシミも残っている。「……ごめんね。汚して」「いいよ。僕だって汚したし……」「大丈夫だよ」 海斗はそう言って、圭を後ろからそっと抱きしめた。「もう今夜はここまでにするよ。ゆっくり眠れそう?」「うん……」「おいで」 海斗が腕枕を差し出す。 圭はそこへ頭を乗せ、身体を少しだけ近づけた。 海斗の手が、ゆっくりと圭の髪を撫でる。「……僕も、あの二人みたいになってしまいそうで怖い」「……え?」「圭を幸せにしてあげなきゃいけないのに。いつ

  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第九十九話

     気づいたら二人は寝ていた。一番に起きたのは圭だった。 外は夕焼けのオレンジ色。 夕飯は二人で作るか、それとも先に作っておくか……圭は悩む。 作ってあげたら喜ぶのかもしれない。海斗の喜ぶ顔を思い浮かべる……さっき二人一緒になれた時に見せてくれた嬉しそうな顔、それを思い出して余韻に浸る。 そっとブランケットを海斗にかけてあげる。「よし、作るか……」 ベッドを静かに降りる。下着を履きベッド脇に置いておいたスマートフォンを見る。 メールの着信。 どうせ斗真だろう。圭は小さくため息をつきながら開く。 ……。 圭は固まった。 そのメールは宙からだった。「……なんで……」『久しぶりだね、圭。仕事の邪魔をしてごめん。遠回りして君を引き抜こうとしたのがいけなかったかな。 君の仕事ぶりは知ってるよ。まさかあんなに昔みたいにデザインができてるなんてすごいと思ったよ。もうほとぼりも冷めただろうし、君とまた仕事がしたい』 とのメールの文を見て「バカか……」 つい口に出してしまった圭。 まだメールは続いた。『話は変わるが海斗という君の先輩とまだ続いているようだね。 僕のように可愛がってもらってるかな?斗真とも関係持ってる君にとって物足りないんじゃないのかな…… 君は欲しがりだったから…… 僕のところに戻ってきて』 これ以上は見たくない、とスマートフォンを伏せた。「……圭?」「あっ……おはよう……起こしちゃった?」 海斗が起きた。圭の左手を引っ張りキスをする。だがカーテンから見える夕日の色で慌てて体を起こす。「おはようって……もうこんな時間?! ……夕飯作らなきゃ」 圭は自分が作ろうと思ったのに……とがっかりする。 しかし宙からメールが来たことは海斗に伝えるべきだろうか。「それか頼む? 宅配……その方がまた夜もこうして……」 海斗が圭を抱き寄せる。でれでれと圭に甘えてくる、こんな海斗は見たことがない……と思いながらスマートフォンから離れる。 ……海斗に抱きしめられる。ぐぅっと二人のお腹から音がした。「早く何か食べなきゃ、だね」「そうだよ……頼むのもいいけどせっかく買ってきたんだし作ろう」「そうだな……じゃあ圭、シチュー頼む、僕はハンバーグ作る」「うん」 圭は思う。この日常は崩れないでほしい。このままでいてほしい。 だ

  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第九十八話

     シャワーを順番に浴び、二人はまだ日差しが差し込む寝室に。先に海斗がベッドの上へ。「おいで、圭」 と呼ばれると圭もベッドに。 京都の時に大浴場で一緒になった時はよく見えなかった互いの身体。 きっと海斗はこの一ヶ月近く忙しく不摂生だったろう、少し前の時よりも丸みはあったががっしりとした白い肌に圭は寄り添う。「一ヶ月でこんなにも筋肉はつくのかい……」 そこまででもないと思いつつも海斗は圭の身体を優しく撫でる。 そしてキス。何度もキスをして見つめ合う。 カーテンを閉めているが日差しが入って部屋の中は照明をつけていなくても明るい。 互いの表情を確認しあいタイミングを伺う。少し照れる海斗が圭の上に乗った。「大丈夫、きて……」 それを合図に海斗は導かれるがままに圭を愛する。「んっ……そう……」 声はだんだん荒く、息も上がってくる。「圭っ……」「海斗ぉ……」 名前を呼び合う。 優しく丁寧に海斗は圭を愛し続ける。 大きな海斗の背中に左腕を回す圭。海斗はしっかり圭を抱いてる。 圭は今までにない幸福を感じる。本当に好きだった人が自分の名前を呼んで愛してくれていることを。 宙や斗真たちにはない支配的な欲が絡まない、本当の愛を……。 ようやく……ようやく……そう思うだけでも涙が溢れる。「圭……どうだったかい?」 もう一時間は経った。 圭を下にして二人はうつ伏せで重なり合っていた。 二人とも疲れて重力に任せて脱力している。「……気持ちよかった……でも海斗……どんどんペース上げてくるから……」「ごめん……僕も気持ちよくて……」 海斗は圭の背中にキスをした。首筋にも這うように。「……わかったよ、圭」「何がわかったの?」圭はくるっと仰向けになる。「……宙や斗真さんが君を支配したくなる……その気持ちが……」「……」海斗は圭の髪を撫でる。「……だからこそもう僕も他の人に君を渡したくない……」真剣な目で見つめてくる。「ジムは僕も入会するよ。斗真さんと二人きりにさせない……」「海斗……」「ねぇ、圭……」「何……」「斗真さんとしたこと、教えて……」圭の耳たぶを優しく噛む。圭はアッと声を出す。……もちろん思い出す。斗真とどんな形で……どんなふうに……。「そんなことしてどうするの」圭が言うと海斗は真剣な顔をしている。「

  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第九十七話

     冷蔵庫の前で二人で立ち尽くす。 ここからどう動けばいいのだろう。互いにどうしていいのかわからないようだ。 また海斗の口から話が始まった。「圭は僕といる時は幸せか?」 ようやく圭の方を見た海斗。圭は目を合わせたが目を逸らした。「……目を逸らすんだね……」 圭はそう言われて海斗を見る。だがやはり焦点は合わせられない。「幸せじゃない、なんてことはない」「ならなんで目を逸らしたの」 部屋の音はもう静まり返る。「幸せ、それだけ言えばよかったんだよ」 海斗は圭の顔に手を添え自分の目線に合わせるようにした。「そうなら……斗真くんと何してようが、他の誰と何をしてようが僕は平気だよ」 平気、その言葉を聞いて圭はエッとなった。「僕は少なくとも君といて幸せだよ。その幸せに浸りたいのか……こう過保護になってしまう」 そう言う海斗の目から涙が溢れた。 本当は平気じゃないんだろう、とわかっている。「圭、君は不器用だからうまく言えない……それは僕も一緒だから」涙を拭い上を見る海斗。圭は申し訳なさを感じる。「……それに君には幸せでいてほしい。昔から変わってない」「昔から……」「君が後輩としてやってきた時から……」 ああ……と圭は思い出した。海斗と初めて出会った時。 何かとシンパシーを感じていた。この先輩はやたらと自分に構ってくれて優しくて。 助けてくれる人……。「君のことが好きだから……幸せにしてあげたいんだ……」 こんなにもそう思ってくれる人がそばにいた、なんてことをしてしまったのかと圭の目からも涙が溢れ出た。その涙を海斗が拭う。「ごめん……ごめんなさい。海斗……」「圭……僕もちゃんと言わなかったから」圭は首を横に振る。「わかってたよ、わかってたのに……僕も海斗が好きで……好きで……好きなのに……」うまく言葉が出てこない圭。海斗はその圭の唇にキスをする。優しく。だんだん強く、激しく。「……なぁ、圭……」「なぁに?」海斗が少し顔を赤らめる。「僕はこれ以上の、愛情表現を知らない……したこともない……」「……」キス以上の愛情表現……。キスだけでも圭は幸せだった。でもそれ以上のことも宙や斗真のようにしてほしい気持ちはあった。「だから圭、教えてくれないか?」「……うん」「……それ知らないから……その……できなかったと言

  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第九十六話

     朝。 圭はいつもより早く目を覚ました。ほとんど眠れていなかった。 それでもベッドから出る。何かしていたほうがいい気がした。 冷蔵庫を開ける。中身はほとんどない。 冷凍庫に残っていた作り置きをいくつか取り出し、朝食の準備を始めた。「……材料、買いに行かなきゃな……」 呟きながら、卵を手に取る。「あっ……」 手が滑った。卵が床に落ちる。「……あー……」 慌ててしゃがみ込み、片付けようとする。 そのとき、背後から声がした。「あらら。朝から……」 海斗だった。 海斗はすぐにキッチンペーパーを持ってきて、手際よく床を拭き始めた。「大丈夫。僕がやるよ」「……ごめん」「いいよ」 立ち上がった海斗と、目が合った。「……おはよう」「おはよう……」 それだけ。 昨夜のことが、二人の間に残っている。 海斗は夜の間ずっと、自室に閉じこもっていた。 圭も何度か扉の前まで行った。 けれど、声をかけることはできなかった。 そして今も何を話せばいいのか分からない。 沈黙が流れる。「……ありがとう」 圭が小さく言った。「うん」 海斗は何事もなかったように返した。「まだ卵あるよね?」「……うん」「何作ろうとしてた?」「……卵焼き」「なら、まだ余ってるから大丈夫」「うん」 海斗は冷蔵庫を開け、残っていた卵を確認する。「じゃあ、作ろうか」「……うん」 二人でキッチンに立った。いつものことだった。 圭が卵を溶く。 海斗はサラダを作り、冷凍していたおかずを温める。 海斗が包丁を持つ。 りんごの皮を器用に剥いていく。その横顔を、圭は何度も見た。 けれど、海斗は一度も圭を見なかった。「……今日」 圭が口を開く。「うん?」「買い物、行こう」「……そうだな」「僕もそう思ってた」「二人で行こう」「うん」 それだけだった。いつもの会話。いつもの朝。 なのに、何もかもが違っている。 料理ができあがる。二人で食卓に並べる。向かい合って座る。「いただきます」「いただきます」 箸を持つ。 卵焼きを口に運ぶ。サラダを食べる。 ご飯を食べる。ただ、それだけ。以前なら、どちらからともなく今日の仕事の話をした。 海斗が海外であった出来事を話すこともあった。 圭が新しいデザインについて話すこともあった。 

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status